理事長挨拶

理事長挨拶


 里(里地里山・農山漁村)は、人と自然が織りなし合いながら創り上げて来た暮らしの空間です。そこでは、人々は助け合いながら自然の条件をうまく活用し、工夫を凝らして農林漁業の生業や生活と楽しみを生み出し、次世代へと継承してきました。それは人だけではなく、豊かな森と水を創り出し、鳥や獣、昆虫、水生生物など多様な生き物を育んできました。長年にわたって受け継がれて来た里の日常には、これからを本当に豊かに生きていくためのメッセージが込められていると言えます。

 近年、里の重要な資源(自然資源、文化資源、人材等)は、危機的な状況に置かれるようになりました。森林や水源地は開発されたり、十分な人手による管理がなされないために荒廃しはじめています。また集落における担い手の不足が里資源の保全と活用の伝承を困難なものとし、里地里山の持続性を脅かしはじめています。こうしたことは農山漁村の基本的な機能である生産面で消費者が求める「安全安心」に対応できなくなる事をも意味します。近年の都市化・産業社会化、そしてグローバル経済における効率性の追求と一方向的な発達思想は「手間をかける」「共生と循環」といった里の成立基盤となる考え方をねじ切るものでした。しかし、今、現代社会において追求されて来た高度経済成長という名の価値や信念が揺らぎはじめています。本当に豊かに生きるというのはどういうことなのでしょうか。これは、農山漁村に暮らす人々、都市に住む人々双方にとっての命題です。

 私たちはその答えを里の「風土」の中に垣間見ています。里の人々の気づきと外部者とのコミュニケーションの再生、農山漁村と都市との新たな連携協働の中にこれからの里づくりや地域社会づくりの契機があると考えます。本当に大切なことは、実は日本の原風景の中で、人々の身体感覚に合った身近な暮らしの営みにこそあるのかもしれません。特定非営利活動法人 里の自然文化共育研究所は、里の自然と暮らし、様々な生き物、風土、人々のつながりと営みから、多様な主体とつながりながら共に学び実践することを通して、持続可能な循環共生の地域社会を希求し、未来の生き方を模索していきます。

2020年秋 不安と混迷の世界情勢の中で希望を求めて
 特定非営利活動法人 里の自然文化共育研究所
  四代目 理事長 出川 真也